第十話

「頼むよ千秋君!このとーり!」

短髪の背の高い、いかにも爽やかといった男が手を合わせる。

「なら助っ人として!今度の試合だけでいいから!」

このやたらとデカい声で勧誘してくる男は、バスケ部の確か主将をしている上級生だ。名前は――川野?川口?

「いや今ほんと困ってるんだよ〜。入部は無理にとは言わないよ?仮入部でもしてくれたらいいんだって!」

頼む!と言って頭を下げられる。 なんでも、元々部員数ギリギリでやっていたのだが、その内の二人が怪我をしてしまい次の試合に出る選手の数が足りなくなってしまったらしい。

気の毒だとは思うが、俺は正直全く関係ないだろ。スポ根とか一番苦手な分野だし。

「俺なんかがいきなり入っても足引っ張るだけっすよ。他当たってください」

廊下はエアコン完備なんてしてるはずもなく、外からの熱風を無防備に背中で受ける。汗と共にずり落ちる眼鏡を手の甲で押し上げた。

「そんなことないって!この前のクラスマッチの試合観てたぜ。君すげえ活躍してたじゃん」
「あれはたまたま…」
「経験者でしょ?」

確かに中学の三年間、背が高いという理由でバスケをやらされていた。

「俺ら放課後体育館で練習してるから、今日ちょっとだけ参加してってよ」
「…え」
「じゃあもう授業始まるし、放課後な!絶対来いよ!」
「あ、ちょっと…」

念を押すだけ押すと、上級生の男は隣の校舎へと続く廊下へ走って行ってしまった。




エアコンがガンガン効いた教室のドアを開ける。教卓の方に戻ってみると、野郎同士が見つめ合っているという、なんともサムい現場を見てしまった。

「あんたらは何見つめ合ってんの」
「うおあ!…は!?みみ見つめ合ってねえし」
「冗談だっつーの」

焦る幼馴染みを見てため息が漏れる。
こいつら隠す気あんのか。

「で分かったのかよ問題は」
「…おお。先生に教わった」

…あーそうかい。ったく。

「意外と簡単でしょ。家でちゃんと復習してくださいね」

涼しげな顔で仰木のノートを畳む担任に訳もなくイラっとする。ガシガシと首の裏を掻くと、ちょうど予鈴のチャイムが教室に鳴り響いた。


なんか変だと思い始めたのは、二年に上がって少し経った頃。怪しいと感じたのはつい最近。気のせいかとも思ったが、不思議と一旦気づくと目敏くなるもんだ。

例えば授業中に意味もなく交わる視線だとか、女子が話していた担任の弁当の内容と隣で食ってる奴のがまるっきり一緒だったとか。

本人達は無意識なんだろうが、身近で見ている人間からするとむず痒いったらありゃしねえ。

「千秋ー。さっきのバスケ部の先輩何だってー?」
「なんでもねー」

まあ別に…本人達の問題だし、隠してんなら首突っ込む真似はしないでやるけど。
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